男の世界では聞かない「流産」の現実
妻が妊娠したとき、
心拍確認まで終わって、
「よし、ここまで来たなら、もう大丈夫だろう」
正直、そう思っていた。
だって——
流産なんて、男の世界ではほとんど聞かない言葉だった。
職場の同僚たちも、
「奥さん妊娠したんだ」といえば、
そのまま普通に生まれてくる。
誰も、途中で失う話なんてしない。
だから、
まさかそれが自分たちに起こるなんて、
想像したこともなかった。
「出血くらいで」テキストで届いた妻のSOS
あの日の昼、
妻からLINEがきた。
「なんかちょっと出血があるから、横になってみた。大丈夫かな。」
俺は、そのとき楽観的だった。
「そんなこともあるよね」
「出血くらいで、流産するわけない」
仕事中だったし、
正直、深く考えなかった。
「帰ったら話を聞こう」
それくらいに思っていた。
夕方、またLINEがきた。
「出血が止まらなくて、このままだと厳しいかも。」
正直、そのときも、
どこか他人事だった。
「そんな大げさな…」
「心配させたいだけじゃないか」
テキストって、残酷だ。
声の温度も、表情も、
全然伝わってこない。
俺はそのまま、
いつものように家に帰った。
暗闇で泣く妻。知識も言葉もない「俺」の無力感
リビングは暗く妻はいない。
その後、寝室で小さくなっている妻をみつけた。
その姿を見た瞬間、
「……あ。俺、間違ってた」
心臓が
ギュッと掴まれたようになった。
他人事だったはずの出来事が、
一気に現実になった。
なにかをいおうとした。
でも、言葉が出なかった。
励ます?
大丈夫だよ?
なんて言う?
どれもしっくりこない。
知識もない。
経験もない。
何が正解かもわからない。
妻は、静かにいった。
「明日、病院に連れて行ってほしい」
俺は、
「うん。病院に行こう」
それだけいって、
抱きしめた。
その夜、妻は何度もトイレに行った。
止まらない出血。
腹痛。
涙でいっぱいの顔。
でも俺は、
見ていることしかできなかった。
何もできなかった。
何もいえなかった。
そのまま、
朝になった。
病院で告げられた“進行流産”。当事者になれない旦那たち
病院で、医師は気まずそうにいった。
「進行流産ですね。
もう排出が始まっています。」
あまりにも静かで、
あまりにも残酷な言葉だった。
俺は、そこに立っていた。
父親になるはずだったけど、
身体の痛みを感じないまま。
当事者なのに、
どこまで入っていいのかわからない。
「つらい」といっていいのかも、
わからなかった。
夫として「してやればよかった」5つの後悔と決断
あのときの俺は、
正直、何もできなかった。
でも、
時間が経って、少し冷静になって、
今だから思う。
夫として、パートナーとして
してやれたことが、たくさんあったと。
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① すぐ「大丈夫」と言わなければよかった
慰めのつもりで、「大丈夫だよ」といいそうになった。でも、あのときの妻にとって、何が“大丈夫”なのか、わからない状態だった。その言葉は、現実から目を逸らしているみたいで、余計に孤独にさせてしまったかもしれない。
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② 「調べること」を後回しにしなければよかった
流産がどんなものか。心に、どれだけ深く傷を残すのか。俺は、何も知らなかった。わからないなら、調べればよかった。それだけのことだった。
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③ 正しい言葉を探しすぎなければよかった
「何ていえばいいかわからない」そう思って、黙ってしまった。でも今ならわかる。正しい言葉なんて、最初からなかった。必要だったのは、そばにいること、抱きしめること、一緒に泣くこと。それだけだった。
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④ 「終わったこと」にしようとしなければよかった
流産は、「過去の出来事」じゃない。ずっと、残る。心の奥に、生き続ける。俺はどこかで、「時間が解決する」と思っていた。違った。一緒に抱えていくものだった。
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⑤ 妻だけの出来事にしなければよかった
妊娠も流産も、身体は妻のものだった。でも——子どもを失ったのは、二人だった。それなのに、俺はどこかで、「俺は被害者じゃない側」として、逃げようとしていたのかもしれない。一緒に悲しんでよかった。
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⑥ 流産して終わりじゃない
病気は治ったら終わりだ。でも流産後はメンタルもおかしくなる。でもそれは普通のこと。赤ちゃんを失うというのはそれだけ辛い経験だから。「はやく前向きになりなよ」ではなく、時間が癒してくれるまで寄り添えばよかった。
今、同じ状況にいるあなたへ:ただ、そばにいてほしい
この記事を読んでいるあなたは、
もしかしたら——
今の俺と、同じ立場かもしれない。
どう声をかければいいかわからない。
どう支えればいいかわからない。
でも、
解決しなくていい。
「前を向かせなくていい。
ただ、そばにいて。」
それは、実際に流産して、少し落ち着いた頃に
妻が言っていた言葉だ。
それでいい。
それだけでいいのに、できなかった自分がいた。
もし——
今日、
あなたの奥さんが涙を流しているなら。
その手を、
離さないでほしい。
何もいえなかったとしても、
そばにいてほしい。
この話で、
どこかの誰かが、
ひとりきりにならなくて済むなら。
俺は、
これを書いてよかったと思う。
この記事を書いた人
この記事は、妊活ガイド 監修・記事レビュー担当のShunが、
当事者としての視点と、リサーチに基づく知識の両面から監修しました。
男性側の妊活・流産の「語られにくい現実」について、
自身の体験とともに、読者にとって「ひとりじゃない」と感じられる
記事になることを意識してレビューを行っています。
Shun(監修・記事レビュー担当)
妊活ガイド 記事監修・リサーチレビュー責任者
治療歴: 精索静脈瘤と向き合いながら妊活を経験
妊活への取り組み: 生活改善+医療機関での治療

妊活は、身体の問題であると同時に、
心の問題でもあります。
男性側は「当事者でありながら、どこまで踏み込んでいいのかわからない」
という立場に置かれることが多いと感じてきました。
だからこそ妊活ガイドでは、
経験談だけでなく、
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