不妊治療コラム

SNS妊活アカウント(X)をやめた日。仲間が「地獄」に変わる瞬間

SNS妊活アカウント(X)をやめた日。仲間が「地獄」に変わる瞬間

流産直後。妊活アカウントが「居場所」だった頃

流産してすぐはメンタルが不安定で、
ふとした時に涙が溢れた。

そんな時によく見ていたのが、エックス(X)だった。

そこには自分と同じ時期に流産を経験した人が、
意外にも思った以上にたくさんいた。

「今つらいのは私だけじゃない」

それは私にとって、すごく助けになった。
それがいずれ、自分を苦しめることになるなんて、
このときはまだ知らなかった。

思い切って、妊活垢を作成した。

同じ時期に流産した仲間だと思えた。
親近感もあって距離も近く、

かなしみに暮れている人、
気分転換をしようと外に出る人、
少しずつ前を向こうとしている人。

いろんな人がいた。

タイムラインに並ぶ「妊娠報告」。始まる孤独のサイン

そして流産の待機期間を経て、
当然のように「同じ時期に」妊活が始まった。

「流産から最初の生理が来ず、妊娠していました」

そんな投稿を見て、私は驚いた。

そんなにすぐ妊娠することもあるんだ。
希望だと思ったし、心から「おめでとう」とメッセージを送った。

そして次の周期。
また、妊娠報告。

「え?あの人もなの?」
私はまだ悲しみの中にいるのに。

そしてそのさらに次の周期。
タイムラインには、たくさんの妊娠報告が並んだ。

私は、ついに泣いてしまった。

おめでとう、という気持ちはちゃんとある。
でもそれ以上に、羨ましかった。

かなしみのスタートラインは同じだったのに、
リスタートの時期は、こんなにも違う。

同じ悲しみからのリスタートなのに。なぜ私だけが遅れるのか

それでも、まだ私は妊活アカウントをやめなかった。

気持ちを持ち直して、
「またがんばろう」と自分に言い聞かせた。

また1ヶ月後に、同じように泣くことになるとも知らずに。

そうして毎月のように妊娠報告が届き、
半年後には、ほとんどのフォロワーが妊娠していた。

流産のかなしみは、上書きされていくのだと思う。

たとえば新しい命を授かって出産したら、
それは「流産を乗り越えた」というより、
別の大きなよろこびがやってくる、という感覚に近いのかもしれない。

でも、流産後になかなか授からなかったら?

生理が来るたびに、流産した日のことを思い出す。

「あの子はもうすぐ出産だな」
「この人は、もう赤ちゃん生まれたんだ」
「育休か、いいな」
「オフ会か、楽しそうだな」

私は不妊治療で体外受精にステップアップして、
あの頃と同じ場所には、もう戻れなくなっていた。

これから先も、きっと戻ることはないんだろうな、と思った。

同じ「流産」でも、
そのあと歩いていく人生は、こんなにも違う。

励まし合っていたあの時の人たちは、
気づけばもう、ずっと遠くへ行ってしまっていた。

居場所が「義務」に変わる瞬間。妊活アカウントを削除した理由

そう思ったとき、
私は妊活アカウントを削除することにした。

最初はたしかに、あそこは「居場所」だった。
画面の向こうの誰かに、救われたと思う。

でも時間が経つうちに、
そこはもう、居場所ではなくなっていった。

気づけば、妊活アカウントを続けることが、
いつの間にか義務みたいになっていた。

「今日の治療の報告をしなきゃ」
「結果の報告をしなきゃ」

そんなふうに、自分を追い詰めていた。

でも本当は、そんなことしなくていい。

私にとって流産は、まだ「完全な過去」にはなっていないかもしれない。
それでも、この場所からはもう、救われない。

このアカウントの役割は、終わったんだな――そう感じた。

だから、そのタイミングで削除した。

前を向くって、忘れることじゃない。それでも、生きていく

前を向くって、簡単じゃない。

たしかにそこにあった命のことを、
忘れることなんてできない。

「今ごろ出産だったのかな」
「もう1歳くらいかな」
「どんな子だったんだろう」
「会いたかったな」

そんな気持ちが消えることは、きっと一生ない。

それでも私は、その子の分まで生きていく。

そうやって一歩ずつ、
私のこれからを選んでいきたいと思っている。

そしてもし、今同じようにSNSで傷ついている人がいたら、
「離れる」「やめる」という選択肢をとってもいいんだよ、と伝えたい。

流産した妻に、俺は何もいえなかった。 ――旦那として後悔した日のすべて
流産した妻に、俺は何もいえなかった。 ――旦那として後悔した日のすべて流産した妻に、俺は何も言えなかった。夫の後悔と気づき、妻への寄り添い方を実体験から綴った記録です。...

この記事を書いた人

この記事は、妊活ガイド 編集長のArisaが執筆しました。

自身の流産・不妊治療の経験をもとに、
妊活の中で直面しやすい「不安」「選択」「心の揺れ」について、
実体験を軸にまとめています。

Arisa(編集長)

Arisa(編集長)

妊活ガイド 編集長/当事者目線コンテンツ統括

流産経験|人工授精経験者|体外受精経験者|保険適用治療終了経験

治療歴: 流産を経験後、本格的に不妊治療を開始

妊活方法: タイミング法 → 人工授精 → 体外受精

流産を経験し、「妊活=必ず結果が出るものではない」という現実を
初めて突きつけられました。

頑張れば報われると信じていた自分が、
何もできず、立ち尽くすしかなかった時間もあります。

それでも、不妊治療を通して感じたのは
「授かるかどうか」だけではなく、
“どう生きるか”を選び続ける時間だったということでした。

妊活にまつわる情報は、ときに人の心を深く傷つけます。

だからこそ、綺麗ごとでも、ただの希望論でもない、
実体験に根ざした言葉で、
誰かの孤独を少しでも軽くできたらと願いながら、
妊活ガイドを立ち上げました。